日に日に、じわじわと暗い影が忍び寄るみたいな嫌~な感じ。
息が詰まりそうとは、まさにこんな感じのことでしょうか。
東京では外出自粛や、映画館の週末閉館、
学校の休みも延期しそうだなんて、
もうほんとにノストラダムスよりも世紀末感が出てきていますよね。
岩手はまだ今のところ感染者が出ていないということですが、
街からは徐々に人影も消えてきて、
映画館もいよいよ寂しい状況になりつつあります。
これ以上広がると、営業自粛や休館(お客さんが来なくてThe Endの可能性も!?)なんてことにもなりかねない。
ほんとに、どうにかおさまってくれと祈るばかりです。
これこそ、祈ってもどうしようもないことの代表のようなものですが、
目に見えないウイルスに対して私たちができることといえば、
予防に気を配ることと、祈ることくらいしかない。
中劇でも、手すりやカウンターなどのアルコール消毒、
席を選ぶときにお客さん同士の席がなるべく離れるように誘導、
休憩時間の換気など、
できることはできる限り行動にうつしております。
まあ、そもそもこんなにお客さんが減ってしまっている状況では、
劇場内もガラガラでスカスカなので「人が集まる空間」ですらなくなってしまっていますけどね(^_^;)
中劇、つぶれる前にコロナがおさまりますように!!!
そんななか、上映が始まっております
「イーディ、83歳 はじめての山登り」
(C) 2017 Cape Wrath Films Ltd.
夫に支配され、どこにも行けずに監獄のような結婚生活を送ってきた挙句、寝たきりになった夫の介護に30年もの時間を捧げてきた83歳のイーディ。
あまり良い関係を築けているとも思えない娘からは老人施設への入居を勧められ、
ロンドンの重くて暗い空のようにどんよりとした日々を送っていた彼女は、
ある時、馴染みの食堂での店の主人との会話からふと閃き、
唐突にスコットランドの山に登ることを決意するー。
これ私、オープニングから一気にその中に入りこんでしまいました。
セリフは少なく、説明もない。
ただ、スクリーンには身も心も空虚そうな老婦人の、
プライドの高さと長年の苦労や我慢のせいで偏屈になってしまったのであろうめんどくささが絶妙に絡み合った重い雰囲気をまとって都会で鬱々と暮らす様子が生々しく描きだされます。
やりたいことを一切できず、誰にも甘えられずに、
義務だけの家事と育児をこなしてきた毎日は彼女を頑なにし、
そこにうつしだされる娘と母の姿は、
容赦のない女同士の家族の空気以上にピリついていてせつない。
やっと介護から解放されても今、自分は80歳を越え、
人生の終わりや、施設のなかの虚しい今後に絶望を感じている。
プライドばかりが高くて世の中を知らないまま歳を重ねてしまったイーディが、
あるときふとしたことで昔の夢を思い出す姿は、
見ている私のほうにも一筋の明るい光が見えたような気にさせられました。
「大好きだった父と一緒に行きたかった山に登る。」
何かに急かされるように夜行列車に飛び乗った彼女が出会うのは、
地元の登山用品店の若者ジョニー。
ジェネレーションギャップはもちろんのこと、
誇り高く頑固なイーディは、
ささいなことでジョニーと衝突を繰り返すのですが、
美しい大自然のなかで新しいことを覚え、
子供のころを思い出して遊び、
少しづつ表情が和らいでいく姿がなんともチャーミングだし、
新しいことに触れていくたび少しづつ心を開いていく彼女につられて、
やがて若者のほうにも変化が見えてくるのが微笑ましい。
(C) 2017 Cape Wrath Films Ltd.
前半の彼女は、全身灰色や茶色のまさにおばあちゃん服で、しかめつらをした見るからに気難しい都会の老婦人。
壊れた道具も「一回しか使わないのに買いたくない」と言っていた彼女が、
必要に迫られて一つ、また一つと渋々買い物をしていくうちに、
次第に楽しげに、そして明るい綺麗な色のものを選んで鏡を見るようになっていくのがまた素敵。
女子としては、圧倒的な共感を呼ぶシーンだと思います。
買い物って、特に洋服を買うときって楽しいですよね!
目の覚めるようなスカイブルーのアウターや、
真っ赤なジャケットを身にまとって、
絶景の中で柔らかく微笑む彼女は、
ロンドンの自宅で眉間にシワを寄せていた老婦人とはまるで別人のよう。
この主人公のイーディを演じたのは、
撮影時ほんとに83歳だったシーラ・ハンコック。
実際に山に登り、過酷な撮影に挑んだ女優魂は、マジでハンパない。
実はイギリスでは超有名な彼女、
イギリスの役者には王道の王立演劇学校出身のガチの舞台女優。
そしてロイヤル・シェイクスピア・カンパニー最初の女性芸術監督、
ロイヤル・ナショナル・シアターのオリヴィエ劇場(中劇で上映するナショナル・シアター・ライブなどでも使われる劇場です)で監督を務めた最初の女性でもあり、
しかも演劇への貢献により大英帝国三等勲爵士も授与されたハンパない大御所なのでした。
主人公イーディの心強いバディとなる青年ジョニー役のケヴィン・ガスリーもまた、
私好みの正統派イケメンイギリス(スコットランド)男子だし、
撮影はもちろん全編ロンドンとスコットランド、
他のキャストやスタッフもイギリス人ばかりで、
聞こえてくるのはキングズイングリッシュとスコットランド訛りの英語ばかり。
ゴリゴリの『イギリス映画』を思いっきり楽しめる作品です。
実際にスコットランドのスイルベン山で撮影されたその風景は息をのむほど雄大で美しく、
ラスト30分はほとんどセリフもなくて、
憧れだったその絶景を生まれて初めて目にするイーディとともに、
自分自身も一緒に山を登っているような気さえしてきます。
過酷で、ほろ苦いその道のりはまるで自分がたどってきた人生と同じ。
「やめとこうかな、どうせ無理。」
そんな「諦める理由」ばかりを探しがちな私たちですが、
83歳にして何かに挑戦し、知ろうとすること。
そして他人と触れあい人に頼ることを覚え、
生まれて初めて自分のための一歩を踏み出した女性の姿は、
全ての世代が勇気づけられる作品となっています。
(C) 2017 Cape Wrath Films Ltd.
余計な説明は一切無いし、セリフもあまり多くはないこの映画は、まるで潔いドキュメンタリーのようにまっすぐに心に響きます。
今みたいに世界中が暗くて重いこんな状況だからこそ、
明るいだけでなくシビアな現実という大前提のもとに、
それでもやっぱり前向きな、
一歩踏み出せば人生はいつだって豊かになると信じられるような、
こんな映画が必要なのではないかなと強く思います。
みなさんもぜひ、この映画から勇気と希望をもらってください。
公式サイト→http://www.at-e.co.jp/film/edie/
さらに今日から公開。
「ロングデイズ・ジャーニー」
(C) 2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms
これ。絶対に万人受けはしないんですけど、
いろんな人にやみくもには薦めない作品なんですけど。
でも私。
好きなんです。
わかりやすくイメージで言うと、
ウォン・カーウァイの「欲望の翼」。
オープニングからすぐに、
「絶対この人、『欲望の翼』が好きなはず!」
と思いながら観ていました。
「欲望の翼」はスクリーンだけでも7回は観ている、
私も大好きな作品。
ノスタルジックな古い街並みのなかに時々強烈に浮き出る鮮やかな色あい、
監督の好みと感覚だけに徹底的に寄り添う音楽の使い方は、
まさにウォン・カーウァイ的だし、
けだるさともの悲しさに覆われた重い空気に包まれながらゆったりと始まったストーリーが、いつの間にかどこかへ向かって走りだしているのに気づいたとき、
ちょっとだけ「やられた!」と悔しくなるあの感じ。
初めてウォン・カーウァイ作品に出会ったときのワクワク感を思い出しました。
(C) 2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms
もちろん、現在の中国で映画の世界にいる若い人たちがウォン・カーウァイに影響を受けなかったわけがないので当たり前といえば当たり前なんですが、彼の新作と言われても疑わないくらいのウォン・カーウァイ感。
それはそれで私は大好きなので全然いいんですけど、
でも、やっぱり違う。
なんというか、ウォン・カーウァイもかなりとんがってはいたのですが、
このビー・ガンという現在30歳の新進気鋭の若い監督の長編2作目であるこの作品は、
ノスタルジーとノワールのまじりあった薄暗い洞窟の中を猛ダッシュしているような不思議な感覚。
どんよりとしているのに攻撃的で、
ねっとりとしているのに超クール。
詩的なセリフとスタイリッシュな映像に目を奪われながら、
「え、あれ、これ誰だっけ?」
「え、なんでこの人が?」
「???どういうこと???」
などといちいち気にしているとカメラに置いていかれるので要注意。
現在と過去、夢かうつつか。
そんなこと、あとで考えよう。
そのくらいのつもりで、ただただ映像に身をまかせてほしい。
そんな映画。
(C) 2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms
そしてこの映画を絶対にスクリーンで観ておいてほしい理由が。後半60分、ノーカットのワンショットで撮影された、
幻想的な時間旅行。
主人公とともに、子供のころにどこかで乗ったことのあるターザンみたいなジップラインに身を任せた瞬間から私たちの体がどこかのパラレルワールドに向かってゆっくりと走り出す。
初めてなのにいつか見たことのあるような場所、
幻なのか現実なのかわからなくなるような浮遊感の中でさまよう感覚、
研ぎ澄まされたシンプルな世界観と複雑なストーリーの境界で心地よく揺さぶられる記憶や戸惑いや郷愁やよくわからない感情、
ごちゃまぜになったそういったものたちがスタイリッシュな映像のなかで最後に静かに着地する。
ストーリーなんて、あるようでなくて、
ないようでも実はあって、
「結局どういうことなの?」
なんて聞くのは野暮というもの。
ただ、力を抜いて何も考えずにスクリーンを眺めていればいい。
そこに答えなんてなくても、
たとえば「なんじゃこりゃ?」と思ったとしても、
それでも観た人はきっとこの映画のことをずっと覚えている。
そんな作品です。
椎名林檎、松本大洋、坂本龍一といったジャンルを超えたアーティストたちもざわついてレビューを寄せ、
先日、アジア初のアカデミー作品賞を受賞した「パラサイト」のポン・ジュノ監督、
中国映画界の巨匠チェン・カイコーやアン・リーなども絶賛した新しい才能。
これは観ておかないと、10年後20年後に後悔しますよ!
ウォン・カーウァイ大好き、そもそも香港映画が好き。
というひいき目100%の私ですが、
映画マニアは当然のことながら、
中国映画にあまり興味が無いという方も
一応、話のタネに観ておくと、あとでかなりおいしいことになると思います。
「ああ、ビー・ガン?彼の若い頃の映画、スクリーンで観てるわー。(ニヤリ)」
なんて、したり顔で周りに自慢できると思いますよ(*‘∀‘)/
とりあえず、難しいことは考えないで劇場の椅子にゆっくりと身をゆだねてみてください。
新しい映画体験にようこそ。
(ほんとは後半60分だけ3Dという特殊な作品なのですが、残念ながら中劇では全編2Dでの上映です。。。)
公式サイト→https://www.reallylikefilms.com/longdays
なんだか重苦しい空気が続くなか、
なんとなく娯楽がどんどんいけないもののように扱われ、
私たち映画業界も先行きの見えない不安のなかで一日、一日を過ごしているところです。
娯楽は命にかかわることではないので、
どうしてもそうやって後回しにされるものですが、
それでも娯楽って、人間にとって必要なものですよね。
子どものころに夢中になってた笑いの神様が亡くなってショックだったけど、
その追悼番組を見て自分も現代の子供も一緒に大爆笑したことや、
こんなときだからこそとyoutubeで無料で配信された歌や誰かの笑顔を見て癒されたというたくさんの人たち、
どこにも出られないけど家でボードゲームをやる楽しさを知ったというイマドキの子供たちも、
やっぱり人間には心の栄養が必要なんだなと実感します。
早くみんなが、世界中がもとどおりの生活に戻って、
今やりたいことを迷わずやれる日が来るといいですね。
早く映画館に子供たちが、たくさんの人がなんの心配もなく来られる日がきますように。
★中劇公式サイト PC→http://www.chugeki.jp/携帯→ http://www.chugeki.jp/mobile