お盆を過ぎれば秋。
というのが盛岡の定説ですが。
まさにそれ。
お盆を過ぎたら急に涼しくなり、あっという間に8月も末。
ついこないだまで夜も寝苦しかったというのに、
いきなり夜もエアコンいらず、朝晩は長袖の羽織り必須。
雨ばかりで微妙な夏でしたが、終わるとなると寂しいものですね。。。
そんな夏の終わりに、頭から足の先までヒヤッとする、
というか観てる間じゅう背中がゾクゾク、身震いするような映画を観ました。
『アルピニスト』
© 2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.
もう始まってすぐから、頭がクラクラするようなものすごい高さの断崖絶壁(ほぼ垂直)を命綱無しでスルスル登っていく一人の人間の姿に、
全身の血の気が引き、胃のあたりから足のつま先までいきなり氷水のなかに入ったような寒気が( ゚Д゚;)
椅子に座ったまま思わずつま先立ち、手には汗。
そしてその気が遠くなるようなゾクゾク感と思わず自分の足がすくんでしまうような緊張感は、この映画の最後の最後まで続きます。
映画館なのについつい思わず「嘘でしょ・・・(゚Д゚)」「ヒィッ・・・(>_<)」と呟いてしまった私。
握りっぱなしの汗だくの手を、何度自分のデニムの腿のところでゴシゴシと拭いたかわかりません。
ジェットコースターだらけで有名な富士急ハイランドよりスリル満点かも。
映画は、このデジタル中心になってしまった世の中で、
SNSで自分をアピールすることや他人と繋がることが当たり前になってしまった時代において、
そことは全く別次元でひょうひょうと暮らす若きクライマーの姿を映し出すドキュメンタリー。
携帯電話も持たず、自分の記録を残そうともしなければもちろん自慢しようともせず、
命綱も付けずに、しかもたった一人で、
「ただ自分がやりたいだけ」「そこに登りたいだけ」であちこちの難ルートを制覇していく若者がいるという噂。
ってそんなの、もうほぼ漫画でしょ( ゚Д゚)!?
だって、せっかくものすごいことやるんなら言いたいじゃん!?
「見て見て!これ、私!!!」って言いたいじゃん!?
名前、残せるもんなら残したいじゃん!?
でもカナダ出身の若きクライマー、マーク・アンドレ・ルクレールは、
そんなこと全く興味無しで、自分の登りたい山を下見も無しにただ登る。
太古の昔、きっと人間が(動物が?)、「あそこに登りたい!」とふと思ったから登ってみた。
っていうのと同じ感覚?動物の本能?好奇心?
・・・にしては危険すぎる!!!
登るのが難しいといわれる山を次々と制覇して数々の偉業を成し遂げながらもそれまでまったく無名だったのは、
彼が名声もお金にも関心がなく、純粋に自分の楽しみのためだけに山に登っていたから。
そしてそれが、「たまたまスッゲー山だっただけ」。
・・・・・って、そんなことある( ゚Д゚)!?
おずおずとカメラの前に腰かけて所在なさげにとつとつと自分のことを話し出すその不器用そうな笑顔からは、
この青年がまさか目も眩むような断崖絶壁や、ちょっと蹴ったら崩れ落ちてしまいそうな氷の壁を命綱も無しに登っていくようなクレイジーな男だなんて全く想像もつかない。
それでもすこしづつ見えてくる彼の幼いころからのエピソードを知るほどに、
なるほどと納得。
© 2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.
彼の数々の偉業の背景には、
幼いころにADHD(注意欠如・多動症)と診断された彼の持つ性質や才能と、
それをきちんと受け止めて認めてのばしてやろうと努力し支えた素晴らしい家族の存在が見えてくる。
それは、やろうとしてもなかなかできないこと。
学校にもうまくなじめないでいるようなわが子には、
危険なこと、大変なこと、そういうものからはなるべく遠ざけておきたいと思うもの。
それでも母は、あなたの好きなことをやりなさいと背中を押した。
本人の才能とひたむきさ、好きなことだけに向き合ってきたゆえの高い技術ももちろんすごいけど、お母様もすごい!
そして、山を通じて知り合った恋人の存在。
山にしか興味がなく、フラッといなくなったりもする自由すぎる相手のことを、
面白がり受け止めて愛する彼女もまたすごい。
二人で森の中のテントで暮らし一緒に断崖絶壁を登りながら、
「楽しい!」「最高だね!」と言い合う二人は、
自然界における男と女の一番シンプルで尊い姿に見えた。
撮影中、彼はいきなり姿を消したりもする。
そして延々と音信不通。
戸惑い心配するスタッフをよそに、やがて難攻不落といわれる山の単独初登攀に成功したという彼とやっと連絡がとれ、
「なぜ勝手にいなくなったのか」と問われるとあっさり、
「誰かがいたら〝単独”じゃないだろう?」
・・・・・それはそう(*_*;)
たしかにそれはそうなのよ。。。。(-_-;)
なんだろう、言ってることは間違ってない。
やってることも全く変じゃない。
だって彼は「あの山に登りたいから登ってる」だけなんだから。
なんなら大正論。
それを考えると、正論だけでは動けていない自分に気付いてやりきれなくなる。
世間体、たてまえ、都合、顔色、常識、生活、将来etc.....
いろんなことに縛られて、いろんなものにとらわれて、
そのくせ自分から変わろうとも動こうともせずに、ただただ日々をやり過ごしている自分。
私はいったい、なんのために、どうしてここで生きているんだろう?
なんて、普段全く考えずに(あえて見ようとせず?気付かないふりをして?)過ごしている、でももしかしたら生きていくうえでものすごく大切なものを炙り出されたような気にすらなる。
シンプルに生きることって、すっごくすっごく難しいんだなぁ。。。
© 2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.
そんな彼でも、登山に飽きてドラッグにハマったこともあるという。
でも結局、ドラッグの一時的な興奮状態なんて、
命綱無しで断崖絶壁を登る冒険にはかなわない。
かなうわけがない。
ほんのちょっとの手や足先の感覚次第で動きが大きく変わってくるクライミングの技術において、
ドラッグどころかその日のコンディション次第で命の危険さえ出てきてしまうフリーソロ。
そしてその達成感や感動といったら、凡人の私みたいな人間には到底想像もできないものでしょう。
ドラッグなんか比較にならないはず。
そんなところに身を置いて暮らす人なんだからクレイジーに決まってる!
・・・と、思いますよね。
でも結局、映像も、この方がやってることも、とにかくクレイジーではあるのですが、
カメラの前ではにかむ本人だけはなぜかどこまでいってもクレイジーには見えません。
まるで目の前のおもちゃに夢中な子ども、
あるいは山を登るのが好きな仙人?
天才クライマーというよりは、あくまで飄々とした素朴な青年。
そして彼は恋人に言います。
「僕がいなくなっても、君は冒険をやめないでくれ」と。
ドキッとしました。
つまり彼は「危険なことにハマっているクレイジーな若者」ではなくて、
「きちんと危険やリスクを理解したうえで、相当な覚悟を持って純粋に自分のやりたいことに突き進む冒険家」だったのです。
・・・・・なんかスゴイ。
もうなんていうか・・・・・・ただスゴイ。
それが正しいかどうか、人から理解されるかどうかは別にして。
© 2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.
どうでもいい情報ですが、実は私もちょっとだけクライミングをかじってまして。
ほんとにほんのちょっとですけど。
県営運動公園にある、本格的なクライミングの施設をご存じですか?
スポーツクライミングの競技3種類すべてを一か所でできて10月にはワールドカップも行われる(国際大会を開催できる)、日本では数少ない本格的なクライミング施設です。
あの施設を使うには、使用料もかなり安いし一般の人でも予約すればいいんですけど、
決まった講習を受けて認定証を取得していないといけなくて、
その必要に迫られて、講習を受けて認定証を取ったわけなんです。
この、万年運動不足の私が。
「体を動かすくらいなら太ってもいいわ!」側の代表である私が。
あまりの運動神経の悪さに、学生時代の体育の時間「あんたと一緒のチームは嫌!!」と友人たちから同じチームになることを拒否されまくっていた、この私が。
施設を使うためのお話を聞いているうちはいいですよ。
やっぱりねー・・・・登るわけですよ、あの壁を。
オリンピック選手が練習場所として選ぶくらいのガチの施設の壁をね。
そりゃあもちろん、簡単なルートですけどね。
たった数回ですけどね。
・・・・・・・・・・・超~~~~しんどい(;゚Д゚)!!!
そしてめっちゃくちゃ疲れる(;゚Д゚)!!!
そして当然、筋肉痛。
やったの、7月あたまくらいでしたけど、まだ痛い気がする(?)。
まあ、そんな私の話とは全く無関係!ってくらいの映画ですけどね(*_*)
そういった施設で行うスポーツクライミングと、
マークが岩壁や氷壁を登って挑んでいるクライミングは、
ステージが全然違うし、やってることも違うし、
もうなんか全部違うんですけどね!!
そもそも同じ話の中で語るなってくらいのレベルなんですけどね!!
なので、例えに出すほうがおかしいくらいのしょーーーもない話でしたが、
ただ、もう、あの、たった数メートルのでこぼこの壁を上るのにヒーコラ言ってる私からすれば、
ほぼ垂直の、でこぼこもあんまりないくらいの(ツルッツルにしか見えない)ほんとの岩の壁を自分のカラダ一つでスルスル登っていくのとか、
「なんなの!?魔法!?手に吸盤でも付いてるんか!?」
みたいな、アホみたいな言葉しか出てきません。
それなのに、映画の中のほぼ垂直の岸壁や氷壁、
当たり前だけど登るだけじゃないんですよ!?
登った先には車が待っていて「お疲れ!」なんて言ってブーンて去っていくなんていう30年前のチャウ・シンチーの香港映画みたいな話じゃないんですよ!
なんなら頂上、とんがってるし(゚д゚)!
→この表現で合っているか自信が無いけど!
頂上どころか途中、座って休憩するところだってほとんどないし(゚д゚)!
→そんななかで一晩寝るシーンもあるけど(;゚Д゚)!
とにかく、登ったら下りるんですよ!!!
生きるか死ぬかのギリギリでやっと上った岸壁やら氷壁から、今度は下りる!!
それが無理・・・・・(/_;)
百歩譲って、登ったとしても下りるのが無理・・・死ぬ。
そして次の瞬間、突然崩れてもおかしくないような薄さの氷の壁を登る様子を真横からすぐそばで撮影したり、
マークの息遣いが伝わるような臨場感あふれる映像で、
いつ落ちてもおかしくない状態での緊張感を常にギリギリで保ちながら、
彼がアイゼン(氷の上を歩く際に滑り止めとして靴底に装着する金属製の爪が付いた登山用具)で足を引っかける場所を少しでも間違えたら氷が割れてしまいそうな場面や、
アックス(映画のポスター画像でも使われている、手に持ち雪や岩などに突きさして使う道具)をヒョイと肩に載せてまた素手で登り始めたり(それ、落ちるーー!!落ちたらどうすんのー!!??)する様子まで、まるで目の前で見ているかのように映し出します。
© 2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.
・・・・・え?ていうかこれ、そもそもどうやって撮ってんの(゚Д゚)ノ?
さすがに撮影する側まで命綱無しは無理だとしても、
いくら自分たちもクライマーでアウトドア作品のプロフェッショナル揃いだからといって、カメラを持ってここまで登ったってこと!?
とにかく、ものすごい臨場感の映像にゾクゾクと体中冷え冷えしつつ、
「ハァァァ!?」「マジで・・・・!?」などと一人でいろんなツッコミをしながらの、
あっという間の90分でした。
映画の中では、数々の映画賞で絶賛されアカデミー賞でも長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した「フリーソロ」のアレックス・オノルド(こちらの映画もすごかった!)も感嘆と称賛の言葉をおくっているし、
型破りな登山家として有名な山岳界のスーパースター、ラインホルト・メスナーへのインタビューをはじめ、多彩な登山家たちからのコメントも興味深い。
恐怖と美しさが表裏一体となった大自然の絶景のなかで、
競技でも記録でもなく純粋にひたむきに山と、そして自分と向き合う唯一無二のアルピニストの崇高なまでの生き方を、
敬意と尊敬のまなざしでまっすぐに映しだすドキュメンタリー。
この興奮と臨場感は、絶対に劇場で、大きなスクリーンで体感してください。
さて、夏も終わりに近づき各劇場が徐々に静かに落ち着いた空気になってくるこの時期。
・・・・え?中劇はずっと静かだろって?
そうですけどね!
それはそうなんですが!
お客さんが入るか入らないかということと、
我々の業務内容や仕事の量は、
もちろん関係が無いわけではないのですが、
たとえお客さんが来なくとも、たとえフロアが閑散としていたとしても、
最低限のスタッフ配置は必要で、
夏休み期間の映画なら早朝出勤も、レイト上映だってあるし、
お客さんの数とは別のところでの業務はなくならないわけで。
忙しかったかどうかは別にして、スタッフの気持ち的にも体力的にも夏休みが終わるとひと段落。
ですが、そうなると今度は怒涛の新作ラッシュのシーズンに突入。
どこの劇場も、ここぞとばかりにいろんなタイプの面白そうな作品をブッこんできます。
中劇ももちろん、「ほんとにこんなにできるの!?」と思いつつ、
″2スクリーンしかないのに毎週新作公開”というクレイジーな暴挙に挑んでいます。
すでに走り出している!
現在上映中の8月19日公開「サバカン」、8月26日公開「アルピニスト」にはじまり、
9月2日公開「野球部に花束を」
高校球児たちの日常を描く、思春期あるある満載のリアル青春コメディ。
(C) 2022「野球部に花束を」製作委員会
9月9日公開「ロッキーvsドラゴ:ロッキーⅣ」
42分の未公開映像(!?)を加えて、4Kデジタルリマスター、ワイドスクリーン、5.1chサラウンドでスクリーンに蘇る、スタローン本人が再構築した新たな「ロッキーⅣ」。
(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
9月16日公開「ブライアン・ウィルソン 約束の旅路」
ビーチ・ボーイズの創設メンバーであるブライアン・ウィルソンの、栄光の裏にあった壮絶な真実を紐解くドキュメンタリー。
(C) 2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
9月23日公開「犬も食わねどチャーリーは笑う」
SNS〈旦那デスノート〉をめぐる、リアルで怖くて新しいブラックラブコメディ。
(C) 2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
そして10月以降ももうすでにぎゅうぎゅうに渋滞中なんですが、
楽しみな新作が入ってきました。
10月14日公開「スペンサー ダイアナの決意」
没後25年。ダイアナ元妃が人生を変える決断をしたといわれる1991年のクリスマス休暇が描かれる、実話に基づく気高くもせつない物語。
(C)Pablo Larrain
もう25年も経つんですね!
あのときテレビを見ていて飛び込んできた事故のニュース映像を、今も鮮明に思い出します。
そしてなんと、ダイアナ元妃の世界初となる劇場版ドキュメンタリー「プリンセス・ダイアナ」が、同じ10月14日から南部興行さん(上映はルミエールさんかなー?)で上映されます!
このドキュメンタリーも面白そう!
史上最も愛されたプリンセスに何があったのかー。
ダイアナ元妃を演じたクリステン・スチュワートが今年のアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされ世界中が大絶賛した「スペンサー ダイアナの決意」(中劇で上映)と、
アーカイブ映像と未公開フッテージ映像を交えて描くドキュメンタリー「プリンセス・ダイアナ」(南部興行さんで上映)。
どちらも10月14日からの上映です。
続けて観ればさらに楽しめそうですね!!
今年も面白くなりそうな、秋の大人映画シーズン。
この機会にぜひ、映画館通りをハシゴして楽しみましょう!
★中劇公式サイト http://www.chugeki.jp/